「収入300万円以下は雑所得」の意味するところ
2022/09/01 15:39:56 節税
コメント (0)
国税庁が8/1に出した所得税の通達(法令解釈)の改正案が話題になっています。通達は税法そのものではないですが、「国税当局としてはこう解釈して税法を運用しますよ」という指針になります。そして話題になっている内容は、「収入金額(=年売上高)が300万円以下のものは、原則雑所得」という一文です。
今まで個人で事業・副業をしていて確定申告をする場合、それが「対価を得て継続的に行う事業」の場合は「事業所得」、そこまでではないものは「雑所得」と区分されていました。じゃあ具体的に事業所得と雑所得の境目ってどこよ?と聞かれると、はっきり決められていなかったので、実際のところ本人が「これは事業よ」と言えば事業所得、みたいなわりとアバウトな感じもありました。今回、今さらながらその境目が示された形です。(なお所得税の取り扱いなので、法人には関係ありません。)
では事業所得と雑所得で何が変わるのかという点ですが、両者とも売上から経費を引いた残りが利益で、それに対して累進課税で所得税が課される、という部分は同じです。異なるのは、雑所得の場合①青色申告特別控除(10~65万円)が受けられない、②青色事業専従者給与が支給できない(白色申告の事業専従者控除も取れない)、③損失が出た場合他の所得と損益通算(=相殺)ができない、という点になります。他にも純損失の繰越控除ができない、30万円未満の少額減価償却資産の特例が使えない、などもあります。
①②の意味するところは、事業を行って利益が出た場合、「がっつりやらないと税金計算の時の優遇を受けさせないよ」ということになります。日本政府は副業を推進してるのだからがっつりやりなよ、と言いたいのかもしれませんが、努めている会社が副業禁止でこっそりやっている程度では税金は優遇されない、という不公平感が出る気がしますね。
また③は流行りの「サラリーマン節税」を封じる意味があります。書店でこれ関連の書籍がたくさん並んでいますが、例えば売上を10万円、経費を(入れれるだけ入れ込んで)200万円計上し、赤字の△190万円を給与所得と相殺する申告をして、給与から天引されていた所得税を還付してもらう、みたいなスキームです。ほぼ税金還付を目的にしている事業なんか、事業じゃないだろう!という税務当局の言いたいことはわかりますが、事業の黎明期で本当に赤字がかさんでいる場合も杓子定規に相殺を認めないのか、という問題も出てきます。
なおこの内容は8/31までパブリックコメントを募集しており、その内容によっては原案が修正される可能性があります。また改正が施行された場合、令和4年分以後の所得税について適用されます。つまり令和4年1月以降の事業までさかのぼって影響を受けますので、ご注意ください。
相続税対策を認めなかった衝撃の最高裁判決
2022/08/01 12:38:45 相続対策
コメント (0)
令和4年4月19日、相続税対策に関わる方・業界にとって衝撃の最高裁判決が下されました。法令に沿って適切に相続税申告をしたにも関わらず、その申告を認めず2億4,050万円の相続税の追徴課税を言い渡した事例です。
前提内容をざっと説明しますと、北海道在住の個人には約12億円の預貯金がありました。相続税対策のために東京都杉並区と神奈川県川崎市のタワマン2部屋を、10億円強の銀行借入をして、13億8,700万円で取得しました。
その約3年後に相続が発生しました。この2部屋のタワマンの相続税評価額は、国税庁の「財産評価基本通達」の通りに評価すると約3億3,300万円でした(取得額の約4分の1!)。これに残っていた預貯金を加えても、債務の10億円強を引き算すると基礎控除以下になるということで、相続税を0円と算出しました。
なぜタワマンの評価額がそんなに下がるかと言いますと、建物の相続税評価額は固定資産税評価額と同額となっており、固定資産税評価額は基本的に建物そのものの価値で算出されるため、都内一等地で人気の最上階である等の「販売価格」が高騰する要素に対してはあまり反映されないためです。
この算出方法自体は全くの合法です。にもかかわらず課税当局はこの申告を認めず、最高裁もこれを支持しました。税法には「同族会社の行為計算の否認」という規定があり、「合法であっても結果的に不当に納税額を減少させた場合は、最後にひっくり返しちゃいますよ」というトランプでいうジョーカーのような最終兵器が準備されています。そんなアホな!あんたらのルール通り計算したのに否認されるって、ここは社会主義国家かよ!ってことになります。
否認された理由を見てみましょう。被相続人には不動産購入前には約12億円の預貯金がありました。これが「たった2回の不動産取得をしただけで数億円の相続税が0円になることが、銀行借入をしない・できない納税者との公平さを欠く」ため、「財産評価基本通達」ではなく不動産鑑定評価で再計算しろとのことでした。どう思われますか?私は、節税対策をした人としなかった人との税額が変わるのは当たり前だろう!と思いますが・・。
さらに、不動産を購入した時の被相続人が90歳すぎであり節税以外の目的でこのような高額な不動産を購入した理由が見当たらないこと、相続人が相続後9か月で不動産を売却したこと、さらにはこの不動産購入を提案した三菱UFJ信託銀行への反面調査により「事業経営財務診断」という名前の提案書に「相続税の節税目的」とはっきり書かれていたこと(金融機関は後々のトラブルを避けるために、顧客とのやり取りの内容を稟議書等で残していることが多く、税務署もその稟議書等を抑えようとすることが多い)等が決め手になったようです。
対策としては、節税目的のみでの行為は(特に節税額が高額な場合)このように最終兵器で否認されるリスクがあることから、「節税以外の目的での行為により、結果的に税額は減少したが、あくまで結果論にすぎない」というシナリオを描けるようなスキームにする必要があると思います。
インフレに向かう今後をどう立ち回るべきか
2022/07/01 17:56:49 経済一般
コメント (0)
日本を含め世界中で急激なインフレ(物価上昇)が起こっています。日本でも最近食料品などの値上げが相次いでニュースになっており、将来の生活の不安を感じさせます。
もともとインフレは悪いものではありません。むしろ景気が良くなったことのサインである場合も多く、景気が良くなる→企業の業績が上がる→給与が上がる→購買意欲が上がる→消費が拡大し、需要が増える→モノが不足したり高くても買いたい人が増えるためモノの値段が上がる→企業が設備投資や雇用をして供給を増やす→景気が良くなる、という好循環を繰り返していくのが良いインフレです。日本の高度成長期などは、まさにこの典型です。
ところが今回のインフレは、コロナで経済が停滞する→個人や企業を救済するために政府がお金をどんどん刷る→お金が出回り過ぎてお金の価値が下がる→コロナが落ち着き出したので、購買意欲が戻ってくる→もともとコロナの影響を受けていなくてお金を溜め込んでいた人が高価なモノを買い漁る→一部のモノは高くても売れるので値段が上がる→コロナによるサプライチェーン分断や戦争の影響で在庫不足になっているものもつられて価格が上がる→コロナの影響を受けていた人を中心に購買意欲が下がる、という感じでしょうか。最悪の場合、スタグフレーション(景気が悪くなっていってるのに物価が上がっていく)になることもあり得ます。もちろんインフレが適正なところで落ち着き、景気が良くなっていく可能性もあります。良いインフレと悪いインフレの違いは、賃金が上がるか否かにかかってきます。
さてそんなご時世、私たち事業者がどのように立ち回っていくべきかですが、まずはキャッシュの確保です。コロナ融資等を受けて手元資金はまだ不安がない方も多いと思いますが、利子補給は3年間なので、コロナ初期に受けた融資は来年から実質利払いが始まります。また元本据え置きは1~5年間ですので、据え置き終了後の資金繰りは今から考えておかないといけません。企業にとってキャッシュはドラクエのHPと同じです(わからない方はすみません)。これが0になると、他にいくら設備・人材・販路があっても、決算が黒字でも、ジ・エンドです。キャッシュ・イズ・キングです。こだわりすぎると投資・成長機会を失う場合もあるのですが、まずはこれを第一にしていただきたいです。
あとは皆さん肌で感じられていると思いますが、コロナ以後は需要のあり方が大きく変化しています。それは巣ごもりによる消費の仕方や嗜好の変化だったり、サプライチェーンの分断による供給経路や供給バランスの変化だったりするのですが、需要の変わっていく部分と、変わらない部分の両方を見極めて商品展開などの供給を行っていく必要があると思います。
ちょっと抽象的ですが、変わらない部分とはいつの時代でも求められるもの、例えば人の温もりだったり、社会への貢献だったりします。その部分を忘れて需要の変化だけ追いかけ回しちゃうと、いきなりタピオカ屋を初めて失敗するようなハメになります。
意外ともうすぐ!?インボイス制度
2022/05/31 18:03:04 経理事務
コメント (0)
インボイス制度の概要は令和3年10月1日号(第92号)の事務所通信でお伝えしましたが、法案は平成の時代にすでに成立しており、令和5年10月より施行されます。まだ一年以上先ですが、取引先から登録番号を聞かれるケースが散見されるなど、意外ともうすぐなのです。ちなみに登録番号は法人はT+法人番号と最初から決まっているのですが、(わかっているからと登録申請せずに使用するのは違法です。一応)個人はマイナンバーとは関係ない13桁の番号が割り振りされます。TはたぶんtaxのTなのでしょうね。
もともと毎期消費税の申告納税をしている事業者にとっては、「適格請求書発行事業者の登録申請」をすれば2週間程度で登録通知が来ますので、令和5年10月以降に発行する請求書や領収書にその登録番号を載せれば、あとは事務的に変わることはあまりありません。また申請することによるデメリットも特にありません。弊社では、決算時に合わせて登録申請をさせていただいているケースが多いです(各担当者が随時ご案内いたします)。
問題は免税事業者または年間課税売上高が年度によって1,000万円に届いたり届かなったりするような事業者の場合です。売上先がほぼ100%事業者である場合は基本的には申請したほうがいい(せざるを得ない)のですが、売上先の大半が個人消費者の場合は、個々の状況に応じて判断する必要があります。たとえば飲食店の場合、飲食代を接待費として経費にするつもりのお客様から「登録番号がないのなら消費税分は支払わない」と言われるケースが時々あるでしょうが、一般消費者の方がその点意識する場合は少ないでしょうから、申請をして毎年納税をするほうが損なのでやっぱり申請はやめておこう、という判断になる場合もあります。
またインボイス制度の開始は令和5年10月からですが、令和5年3月31日までに申請しておかないと、原則令和5年10月からではなく翌事業年度からしか登録されませんので、注意が必要です。登録申請に合わせて簡易課税の選択申請をしたほうがいいケースもありますので、これらの点をからめて各担当者から提案がありましたら一緒にご確認をお願いします。
最後に、自社で会計処理をされている経理担当者様へ。令和5年10月以降は全ての領収書請求書に登録番号があるか否かを確認し、消費税コードを変えていかないといけません。インボイス制度開始後6年間は登録番号がない領収書等でも8割または5割のみ仕入税額控除が認められる経過措置があります。これらも全て区分が必要です。はっきり言って、結構面倒になりますよ!涙
税務調査報告2021
2022/04/21 13:23:17 税務調査
コメント (0)
税務署の事務年度は7/1~6/30という締めなので、新しい事務年度が始まって少し経過した秋口から冬にかけてが一番税務調査の多い時期になります。弊社では令和3年秋~冬で4件(全て法人)の税務調査がありました。
今回もそうでしたが、税務調査は終結までの期間が長期化する傾向にあります。税務署内の事務手続きが煩雑になっている、税務署がそもそも人手不足気味、などの税務署内部要因が主な理由だと思われます。人手不足かつ(公務員にしては)離職率が比較的高いためか、税務署内は50代のベテランと20代の入って日が浅い調査官が多く、中間層30代40代が少ない傾向があるようです。複数の調査官にも直接聞いたので間違いないと思います。
最初に20代の調査官が来ても中盤以降の踏み込んだ折衝には調査官が対応しきれず、結局途中から統括官(一般企業の課長クラス)との折衝になっていく、という二度手間感が税務調査を長引かせる原因になりました。今回の4件は1件が是認申告(修正なし)でしたが、あとの3件がこの長期化パターンでした。
令和2年はコロナの影響で税務調査自体があまりありませんでしたが、令和3年からは概ね通常通り行われた感じで、実地調査以外にも書面での接触が増えました。「もう一度申告内容を確認していただき、例えば交際費の中に私的な経費が含まれているようでしたら自主的に修正申告してください」などの内容の書面が届きます。思い当たることがなければ、もちろん「該当なし」と回答するだけなのですが。
それ以外の新傾向として、調査官はパソコンの中を今まで以上にかなり見たがります。「見積書や売上請求書の作成状況を確認したいので、保存しているフォルダを開くところから見せてほしい」「請求書を保存しているフォルダを開いた状態でのモニター画面のスクショを印刷してほしい」「データで持ち帰らせてほしい」などです。データ自体は現状では「保存義務のある帳簿書類」そのものではないので持ち帰りの拒否はできますが、きっと修正履歴などの紙にはない証拠データがほしいのだと思います。電子帳簿保存の一部義務化もこのあたりをにらんでのことと思われます。
あと最近少し気になる点として、「領収書や請求書などが揃っていれば大丈夫」と少し安易に思われている方が多い気がします。調査官は基本的には目の前の書類や会話だけで全て信用することはなく、特に怪しい内容に対しては反面調査(=取引の相手方に行き調べる)をガンガン行います。相手先が県外だろうが出張しますし、無予告で取引先に朝一から張り込むこともあります。質問検査権という強力な国家権利を調査官は持っていますので、この反面調査を止める術は納税者にも税理士にも基本ありません。