「現預金の生前贈与による相続税対策」のまとめ
2024/11/01 15:03:20 相続対策
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相続税対策は、大きく「生前贈与」「不動産の活用」「生命保険の活用その他」の3つに分けることができます。そのうち現預金を生前贈与する方法を簡潔にまとめました。有効な現預金の生前贈与方法は、以下の5つです。
(1)年間110万円の贈与税非課税枠の範囲内で贈与する
(2)贈与税率<相続税率となる金額の範囲内で贈与する
(3)相続人でない孫などに贈与する
(4)そもそも贈与税の対象にならない資金として贈与する
(5)相続時精算課税の基礎控除範囲内で贈与する
それぞれの細かい注意点は実行前に各担当者にご確認いただければと思いますが、まず(1)(2)は伝統的な節税方法です。しかし令和6年以降に相続人に行った贈与は、相続発生時に過去7年間さかのぼって相続財産に加算されてしまいます(一部例外あり)。より早い段階から計画的に行わないと、節税効果が薄れることになります。
(3)はたとえ相続開始1日前にされた贈与であってもさかのぼられることがないので非常に有効な節税対策になります。ただし①孫が(遺言書等で)遺贈により財産を取得した場合、②孫が生命保険の受取人に指定されている場合、③被相続人の子が死亡しているため孫が代襲相続人になっている場合、は(1)(2)と同様に7年間さかのぼられますので注意してください。
(4)ですが、被扶養者が生活費として(常識の範囲内の金額で)金銭を渡す場合、大学の授業料等を払う場合は、そもそも扶養義務を実行しただけなので贈与には該当しません。この被扶養者とは両親だけでなく、祖父母も該当します。ただし授業料等は被扶養者が直接大学等に支払わないと一般の贈与とみなされてしまいますので、注意してください。なお(5)については令和6年8月1日投稿のブログで詳しく解説しておりますので、そちらをご覧いただければと思います。
相続税精算課税を使った新しい相続対策
2024/08/01 15:09:14 相続対策
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令和6年1月に相続税法の改正がありました。そのため「生前贈与による相続対策がやりにくくなった」という声を聞きます。これは一部は正しく、一部は本当ではありません。
やりにくくなった理由は、今までは相続開始3年前までに贈与された財産が相続税の計算時にもう一度入れ直して計算されていましたが、令和6年1月以降に行われた贈与については7年前までさかのぼって相続税の計算に入れ直すよう改正されたためです。
年間110万円の現預金を親から子に毎年贈与していたとして、親が亡くなり相続税の計算をする場合は、今までは相続財産の額に110万×3年=330万円が加算されていましたが、これが110万×7年=770万円加算されて相続税を計算することになります。これを「生前贈与加算」と言います。
つまり7年前までの生前贈与は相続税の計算上無効になってしまいます(一定期間内は3~7年前の贈与分が最大100万円までは有効という経過措置があります)。そのため、今後はより早い時期から相続対策を始めることが重要になってきます。
一方、改正の影響を受けない相続対策もたくさんあります。基本的に法定相続人以外への贈与はこの生前贈与加算の対象になりません(遺言による財産の取得、死亡保険金の受取など一部例外はあります)ので、法定相続人でない孫に一代飛ばしで財産を贈与する方法はひき続き有効な対策の1つです。相続開始1日前にされた贈与でも、相続財産には加算されません。
贈与税の非課税の特例制度により贈与された財産も、生前贈与加算の対象から外れます。「住宅資金贈与」や「おしどり贈与」(婚姻期間20年以上の夫婦間での、居住用不動産やその購入資金の贈与)などがあります。また子や孫の教育費用を直接学校等に支払った場合や、扶養家族の生活費関連の支払いなどは、扶養義務に基づく支出なのでハナから贈与税の対象になりません。
改正により新たな相続税対策の手法も生まれました。「相続税精算課税制度」を使う方法です。この制度自体は以前からありまして、届出をすることで生涯で2,500万円までの贈与は贈与税が非課税になります。その代わり、この非課税になった財産は相続時に「全額」相続財産に加えて相続税が計算されます。また届出をした以後は年間110万円の基礎控除が「生涯消滅」します。
そのため、今までは「贈与財産を相続時に加えても相続税が発生しない方が、どうしても自宅を先に相続人のうちの1人に名義変更しておきたい」などの限られたケースでしか使いませんでした。ところが令和6年1月以降は、相続時精算課税制度を選択しても基礎控除が消滅しなくなりました。しかもその基礎控除部分の贈与は、たとえ相続開始1日前にされた贈与でも生前贈与加算されません。そのため「毎年110万円を贈与する以外の相続対策はしない人」など、この制度による相続対策が有効なケースが増えました。新しい相続対策方法の1つと言えます。
インフレ時代の住宅取得の考え方
2024/07/01 16:52:20 相続対策
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コロナ禍以後世界的に物価が上昇しており、各国政府が利上げを実施してもなかなか歯止めがかからない状況になっております。日本は賃金が30年間上がらず蚊帳の外でしたが、ウクライナ戦争や円安の影響による輸入物資の上昇、加えて「さすがにこれ以上日本だけ賃金が上昇しないのはまずい」という日本政府の政策により、日本も少しずつ物価が上昇し始め、基本的にはこの流れは変わらないと思います。
そして広島の不動産事情に目を向けますと、広島県全体の平均では地価は横ばい程度です。人口の転出超過が1位とも言われている中で仕方がないところではありますが、広島市の中区、南区、西区、安佐南区あたりではここ数年で地価が10%以上上昇しているところもあります。また物資や賃金の上昇に伴い建物の建築価格も上昇しており、コロナ禍以後2~3割上昇したとも言われております。
そのため住宅価格も上昇したり、同じ金額でも延床面積が狭くなったりしていますが、今後もすぐに価格が下落することは考えにくいですので、自宅を購入する際は住宅ローンはもちろん、自己資金を両親から援助してもらう、というケースも増えてくると思います。
まず住宅資金贈与の特例ですが、これは父母や祖父母から住宅資金贈与を受けた場合に、申告をすることにより一定額の贈与が非課税になる制度です。現行省エネ等住宅の取得資金は1,000万円、それ以外の住宅は500万円までが非課税になり、令和8年12月31日までこの特例が延長されています。
次に住宅ローン控除ですが、こちらは毎年金額や要件が少しづつ変更されるため複雑になっています。令和6年は、新築の省エネ住宅等は借入残高×0.7%が13年間税額控除されるのは同じですが、その借入限度額が令和5年と比較して認定長期優良住宅等5,000万円→4,500万円、ZEH水準省エネ住宅4,500万円→3,500万円、省エネ基準適合住宅4,000万円→3,000万円、と減少しています。ただし令和6年に限り子育て世帯(自分か配偶者が40歳未満か、扶養親族が19際未満)は令和5年限度額を据え置くことになっています。ややこしいですね。
大きいのは、令和6年以降省エネ基準を満たさない新築住宅を購入しても住宅ローン控除は全く受けられないことになりました。いざ確定申告しようとしたら対象外だった、というトラブルが結構起こると考えられますので、ご注意ください。中古住宅については省エネ住宅等が限度額3,000万円、それ以外の住宅でも2,000万円で、10年間税額控除があります。
住宅には消耗材(住むための消耗品)という考え方と、資産価値という2つの側面があると思います。資産価値が維持、上昇していく不動産というのはある程度中心地に限られていきます。日本の人口は基本的に減少しますので、便利なところには人は集まりますが、そうでない地域では過疎化の加速は止まらないでしょう。しかし「田舎の両親の近くに家を買って住みたい」場合は消耗材としての価値を重視する必要があります。この2つの側面を混同せず、将来を見据えた住まい探しをすることが大切だと思います。
新紙幣発行でタンス預金はどうなる
2024/05/01 15:58:32 相続対策
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今年の7月3日から新札が発行されます。紙幣の刷新は約20年ぶりで、特に一万円札の刷新は約40年ぶりだそうです。刷新の主な目的は偽造防止ですが、日本ではもう一つ重要な目的があると言われており、それはタンス預金をあぶり出すことです。
日本は他の国と比較してキャッシュレスが進んでおらず、一説にはタンス預金は約50兆円程度あるそうです。このタンス預金が無申告で相続・贈与されると国は相続税・贈与税を相当取りっぱぐれるので、なんとかこのタンス預金を市中に引き出そう、としているわけです。
では新札が発行されると旧札は使えなくなるのか、と言うとそうではなく、今の福澤諭吉の一万円札は今後も使えますし、何でしたら聖徳太子の一万円札だって今も使うことができます。自動販売機とかでは使えないでしょうし、コンビニで聖徳太子の一万円札を出したら若い店員さんだったら偽札と思われるかもしれませんが、それでも少しづつ使っていく分には問題ありません。
しかし大量の旧紙幣を銀行に持っていくには問題が出てきます。もし今聖徳太子の一万円札を1,000万円分自分の口座に預け入れに行っても入金させてくれないでしょう。「自分のお金を自分の口座に預け入れできないなんておかしい!」と思われるかもしれませんが、マネーロンダリングを疑われて金融庁に通報される可能性が高いです。また国税当局に「申告されていない現金を大量に保有している」とマークされるでしょう。
ですのであまりに旧紙幣を多額に長期間所有し続けると、価値はあるものの実質どんどん使いにくいお金になって行く、と言えると思います。
「だったら福澤諭吉の一万円札は、今のうちに少しづつ預け入れしておこう」と思われるかもしれません。毎日のATM限度額が50万円だから、20日に分けたら1,000万円預け入れできるな、と・・。しかし、預貯金の動きは国税当局は、職権で取引履歴を閲覧できます。多額のお金が動くと、その出どころはどこなのか?と疑われます。
また相続税の申告をさせていただく時によく目にしますが、相続が発生する前後で毎日50万円づつATMで下ろしておく、という逆の動きをされることもあります。国税当局からするとこのような預金の動きは、相続税を逃れるための「典型的な」動きに見えます。相続が始まると口座がロックされるから先に引き出しておいた、という方がほとんどだとは思いますが、疑われる動きですのでなるべく避けましょう。
大量のタンス預金は、かえって子や孫を困らせるものになる可能性もあります。これを機に相続税対策は、長いスパンで、コツコツと、子や孫を困らせない方法を見つめ直す必要があるかもしれません!
相続税対策を認めなかった衝撃の最高裁判決
2022/08/01 12:38:45 相続対策
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令和4年4月19日、相続税対策に関わる方・業界にとって衝撃の最高裁判決が下されました。法令に沿って適切に相続税申告をしたにも関わらず、その申告を認めず2億4,050万円の相続税の追徴課税を言い渡した事例です。
前提内容をざっと説明しますと、北海道在住の個人には約12億円の預貯金がありました。相続税対策のために東京都杉並区と神奈川県川崎市のタワマン2部屋を、10億円強の銀行借入をして、13億8,700万円で取得しました。
その約3年後に相続が発生しました。この2部屋のタワマンの相続税評価額は、国税庁の「財産評価基本通達」の通りに評価すると約3億3,300万円でした(取得額の約4分の1!)。これに残っていた預貯金を加えても、債務の10億円強を引き算すると基礎控除以下になるということで、相続税を0円と算出しました。
なぜタワマンの評価額がそんなに下がるかと言いますと、建物の相続税評価額は固定資産税評価額と同額となっており、固定資産税評価額は基本的に建物そのものの価値で算出されるため、都内一等地で人気の最上階である等の「販売価格」が高騰する要素に対してはあまり反映されないためです。
この算出方法自体は全くの合法です。にもかかわらず課税当局はこの申告を認めず、最高裁もこれを支持しました。税法には「同族会社の行為計算の否認」という規定があり、「合法であっても結果的に不当に納税額を減少させた場合は、最後にひっくり返しちゃいますよ」というトランプでいうジョーカーのような最終兵器が準備されています。そんなアホな!あんたらのルール通り計算したのに否認されるって、ここは社会主義国家かよ!ってことになります。
否認された理由を見てみましょう。被相続人には不動産購入前には約12億円の預貯金がありました。これが「たった2回の不動産取得をしただけで数億円の相続税が0円になることが、銀行借入をしない・できない納税者との公平さを欠く」ため、「財産評価基本通達」ではなく不動産鑑定評価で再計算しろとのことでした。どう思われますか?私は、節税対策をした人としなかった人との税額が変わるのは当たり前だろう!と思いますが・・。
さらに、不動産を購入した時の被相続人が90歳すぎであり節税以外の目的でこのような高額な不動産を購入した理由が見当たらないこと、相続人が相続後9か月で不動産を売却したこと、さらにはこの不動産購入を提案した三菱UFJ信託銀行への反面調査により「事業経営財務診断」という名前の提案書に「相続税の節税目的」とはっきり書かれていたこと(金融機関は後々のトラブルを避けるために、顧客とのやり取りの内容を稟議書等で残していることが多く、税務署もその稟議書等を抑えようとすることが多い)等が決め手になったようです。
対策としては、節税目的のみでの行為は(特に節税額が高額な場合)このように最終兵器で否認されるリスクがあることから、「節税以外の目的での行為により、結果的に税額は減少したが、あくまで結果論にすぎない」というシナリオを描けるようなスキームにする必要があると思います。